薬膳のお話・中医学の基礎【五臓六腑】
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- 薬膳を基本から学びたい人
- 中医学に興味がある人
目次
五臓六腑とは
五臓とは、肝・心・脾・肺・腎臓のことを指し、六腑とは、胆・小腸・胃・大腸・膀胱・三焦のことを指します。
五臓と六腑には表と裏の関係、つまり陰と陽の関係があり、解剖学的に近い位置、生理機能として近い関係にあり、互いに協調しバランスを保っています。
1. 肝と胆
右のわき腹にある肝は血を豊富に含む臓で、氣の運行、血の貯蔵、血流のコントロール、消化機能の促進、精神活動の調整などのはたらきをしています。
肝と表裏関係もつ胆は肝の裏に位置し、腑に属します。
肝の生理機能
・疏泄(そせつ)をを司どる
『疏』は離れること、『泄』は排泄するという意味。
肝は伸びやかなことを好み、全身の氣の上昇運動を促します。
疏泄機能が正常に機能すれば、精神・情緒が安定し、リラックス状態を維持できます。また氣の巡り、血の流れ、津液の代謝がスムーズになるので、消化吸収も促されます。
・蔵血を司る
血を貯蔵するはたらきと量を調節するはたらき。
蔵血することで肝のはたらきが異常に高ぶるのを防ぎ、出血を防止。また血の量を調節し、体の各部位へ血を送ります。
・筋を司る
蔵血により筋を潤し、関節の動きを円滑にします。
・華が『爪』に現れる
爪に艶があり、美しい状態。
爪は筋のあまりとも言われ、爪を診ることで肝のはたらきの良し悪しを判断することができます。
・『目』に通じる
肝血の滋養、肝の疏泄によって目が潤い、視界がはっきりします。
・液体は『涙』
肝血が変化し、生成する液体が涙です。
・感情は『怒』
適度な怒りは肝氣の上昇や発散を助け、激怒は肝を傷めます。
胆の生理機能
・決断を司る
胆は体の中央にあり、他の臓腑の活動を監視し、精・氣・血・津液などを正常に運行させます。また精神・情緒を安定させるので、精神面での決断と密接に関わります。
・胆汁の分泌と貯蔵
肝の疏泄により、肝に貯蔵されている血から胆汁を作ります。
胆汁は胆に貯蔵され、消化管で消化を促します。
2. 心と小腸
心は胸にあり、中医学では生命を統制する重要な臓と考えられています。
心と表裏関係をもつ小腸は腹部にあり、腑に属します。
心の生理機能
・血脈(血管)を司る
心氣(心のはたらきの基となる氣)か血を作り、血流を調整し、血管の動きをコントロールします。
・神志を司る
神志には生命活動(顔色・視線・言語・反応・姿勢動きなど)と精神・意識・思惟活動の2つの意味があります。
血脈を司る機能が正常であれば、神志を司るはたらきも正常となり、心身愉快で頭の回転が鋭くなります。
・華が『顔』に現れる
心のはたらきの良し悪しは顔色や表情で判断できます。
・『舌』に通じる
心のはたらきが正常であれば、味覚がしっかりして、言語・音声もはっきりします。
・液体は『汗』
汗の源は血。汗は皮膚を潤し、発汗により熱の発散、水液の排泄も行います。
・感情は『喜』
喜ぶと心氣の巡りが良くなり、血脈の流れもスムーズに。ただし大喜びは心氣を緩めすぎることになります。
小腸の生理機能
・受盛化物
受盛とは、胃で消化された食物を受け入れること。
・泌清別濁
清は水穀精微を指し、濁は食物の残渣(廃物や不要な水分のこと)を指します。
小腸は泌清(胃からくる食物の中から水穀精微と津液を吸収し脾に運ぶこと)と別濁(不要な廃物と水分を大腸・膀胱に運ぶこと)を行います。
3. 脾と胃
脾は腹部の横隔膜の下にあります。
脾と表裏関係をもつ胃は上腹部にあり、腑に属します。
脾と胃は消化器官の総合的なはたらきをしています。
脾の生理機能
・運化を司る
運は運ぶ、化は消化・変化・吸収することで、食物の消化吸収や運ぶことを言います。
脾には昇清作用があり、水穀精微を肺・心・脳に運ぶと同時に、内臓の位置を固定し、臓器の位置が下がるのを防いでいます。
・統血を司る
血流をコントロールし、血が血管外に溢れるのを防ぎます。
・四肢と筋肉を司る
脾で生成された水穀精微が四肢と筋肉を営養し、丈夫にします。
・華が『唇』に現れる
唇の色から脾と胃はたらきの良し悪しがわかります。唇の色がピンクで艶と潤いがあれば脾と胃のはたらきが良い状態です。
・『口』に通じる
口は脾と胃の入り口なので、脾と胃の状態が良ければ、食欲があり味覚も正常になります。
・液体は『涎』
涎は消化を促す口の液体です。涎で口内が潤っていれば、脾のはたらきは良好です。
・感情は『思・憂』
思い込みが強かったり、憂いすぎると、氣が滞って、脾氣の運行・昇清作用に悪い影響を与えます。
胃の生理機能
・水穀の受納、腐熟
食物を胃に受け入れて(受納)最初の消化をおこない、腐熟させて小腸に送ります。
・通降を司る
通降とは、食物は口から入り、胃で消化され、小腸・大腸に運ばれるということ。
このはたらきが正常でないと、脾の昇清作用に異常が出ます。
4. 肺と大腸
肺は胸にあり、胸郭に保護されています。肺は鼻を通して外界と繋がっているため、季節の変化に敏感で、邪気が侵入しやすい臓です。
肺と表裏関係にある大腸は腹部にあり、腑に属します。
肺の生理機能
・呼吸と氣を司る
肺は呼吸を司ると同時に、全身の氣を司っています。
呼氣により体内の濁氣(二酸化炭素)を呼び出し、吸氣により清氣(酸素)を吸入し、氣体の交換を行なっています。
・宣発と粛降を司る
宣発とは、呼氣により肺氣を上に向け、外に発散させること。
粛降とは、吸氣により肺氣を下に降ろし、体内へ巡らせること。
これらにより、津液を運行・分散させ、腎と膀胱に送り、氣化作用によって尿を生成し排泄します。これを通条水道といいます。
・百脈(全身の血脈)の集合点
全身の血脈は肺に集まり、呼吸により氣体交換が行われます。
・華が『皮毛』に現れる
皮毛(皮膚・体毛)は肺の宣発と粛降のはたらきが関わり深く、水穀精微や津液に潤されて営養されます。
・『鼻』に通じる
肺は鼻を通して外界と繋がります。肺氣により、嗅覚、声の通りが正常になります。
・液体は『涕(てい)』
涕(てい)は鼻水のこと。涕は肺の液体として鼻を潤します。
・感情は『悲・憂』
肺は秋に影響されやすく、氣が停滞し、消耗され、肺を傷めます。
大腸の生理機能
・水分の再吸収
大腸は運ばれてきた糟粕の中の水分を再吸収します。
・糟粕(廃物)の伝化
伝化は食物を変化させて、伝導すること。
小腸からきた糟粕から糞便を作り、肛門から排泄します。
5. 腎と膀胱
腎は腰にあり、五臓六腑のはたらきの原動力とされており、脳・性機能・呼吸・津液の代謝などと深い関わりがあります。
腎と表裏関係をもつ膀胱は下腹部にあり、腑に属します。
腎の生理機能
・蔵精を司る
蔵精は腎に精を貯蔵すること。精には両親から譲り受けた先天の精と水穀精微からできる後天の精があります。
腎精からは腎陰と腎陽が生まれ、これは全身の陰と陽の基となります。
・成長、発育、生殖を促進する
腎精には、体の成長・発育・生殖能力を促すはたらきがあり、成熟や老化も腎精が関わります。
・髄は化成し、骨を滋養し、脳につながり、歯に関連する
腎精から髄が生成され、髄が骨を滋養、成長させます。
脳は髄によって充実し、発育・成熟します。歯も同じく髄に養われます。なので骨が丈夫ならば、歯も健康になります。
・水を司る
腎氣の氣化作用により、津液を巡らし、水分を再吸収し、尿を生成して、膀胱の開閉により尿を排泄すること。
これにより、体内の津液の代謝バランスが保たれます。
・納気を司る
吸氣を受け入れ、腎に収めること。
吸い込んだ新鮮な空気は肺の粛降により腎に入り、納気によって収められます。
・華が『髪』に現れる
腎のはたらきが良いと、髪の毛が伸び、艶もでます。
・『耳・陰部』に通じる
腎精が充実すれば、脳髄も充実(発育・成熟)し、耳を養い、聴力が鋭くなります。
尿道・肛門の開閉も腎氣の氣化と固摂作用が関係し、腎氣のはたらきが正常であれば、排尿・排便を調節できます。
また腎精が充実し腎氣が旺盛であれば、生殖器官の発育も順調で、性生活や生殖能力も良好です。
・液体は『唾』
唾は口内の液体。唾は腎精により化生され、腎氣の促進作用により口に運ばれます。
唾は口内を潤し、口に入れた食物を消化しやすくします。
※唾と涎の違い
両方とも口内の液体で、同じように見えますが、中医学では異なるものとして扱われます。
唾は濃い液体で、涎は薄い液体。子供や高齢者の口から漏れて流れ出ててくる液体は涎です。
・感情は『恐・驚』
恐怖と驚きは腎を傷つけます。
腎が傷つき、腎氣が下がると尿漏れ、便漏れになることがあります。
膀胱の生理機能
・水分の再吸収
膀胱の氣化作用によって、蓄積している尿から水分を再吸収し、津液を生成します。
・尿を蓄積する
代謝後の不要な水分から尿を生成し、蓄積します。
・排尿する
腎氣の上昇と膀胱氣の降下により、陰部の開閉が行われ、膀胱に蓄積されている尿が排泄されます。
6. 三焦
三焦は六腑の中で唯一、臓と表裏関係がない腑で、胸・腹部にある大きな腑のことをいいます。
三焦は上焦・中焦・下焦の3つに分けられ、上焦は横隔膜より上(心・肺・頭部)、中焦は横隔膜からヘソの間(脾・胃・大腸・小腸)、下焦はヘソより下の腹部(肝・胆・腎臓・膀胱・大腸・小腸・女性器・子宮・男性器)が含まれます。
三焦の生理機能
氣の通り道と津液の通り道。
三焦の機能が正常ならば、全身の氣の運行や津液代謝が順調に保たれます。